2023 年 6 月 27 日公開
アスタキサンチンはミトコンドリアで働く
BioAstin®(アスタキサンチン製剤)について、約 6 年に渡る長崎大学海洋イノベーション機構との共同研究はミトコンドリアを中心に行われた。
2023 年 5 月に開催された第 77 回日本栄養・食糧学会では、マウスマクロファージ様細胞を用い、ミトコンドリアのエネルギー代謝と免疫応答に与えるアスタキサンチンの影響を検討し発表した。(詳細は marine drugs 20(2022)660 に掲載)
第 75 回(2021 年)、第 73 回(2019 年)では、骨格筋細胞内ミトコンドリアに発生する活性酸素種障害によって起こる筋繊維アポトーシスの抑制効果を発表した。(詳細は nutrients12(2020))
アスタキサンチンは、ミトコンドリアに比較的集積し易く、ミトコンドリアの呼吸能を向上する。
アスタキサンチンの筋萎縮にたいする効果とミトコンドリアでの作用機序
○平坂 勝也、 Luchuanyang Sun"、宮司 進之、 紀豊 足立 勝、 楊 敏 " 吉村 智大、
斎藤かなえ Yao Wang”、 谷山 茂人、
二川 健 橘 勝康”
1) 長崎大 海洋未来イノベ、 2) 長崎大院 水環食品栄養、
3) 東洋酵素化学、 4) 成海利 生物科技、
5) 徳島大院 医歯薬 生体栄養
【目的】 海洋性カロテノイドの一種であるアスタキサンチン (AX) は脂質二 重膜に取り込まれ、抗酸化力を有することが明らかにされている。 我々はこれまでに萎縮した骨格筋では、ミトコンドリア形態異常や過剰な酸化ストレスの産生が観察されることを報告している。 興味深いことに、 AXは構造を有しているミトコンドリアに比較的集積しやすいということが報告され た。従って、AXはミトコンドリアにおいても作用する可能性が考えられる。 そこで、本研究では,AXのミトコンドリアにおける抗酸化作用とミトコンドリア障害によって引き起こされる筋萎縮にする作用について検討した。 【方法】 C57BL/6J マウスに普通食もしくは重量比 0.2% (AX 量 0.02%) で配 合したAX 食を与え、 筋萎縮モデルとして尾部懸垂を2週間行った。その後解剖し、筋重量の測定、筋タイプごとの筋線維横断面積測定、筋特異的ユビ キチンリガーゼの発現の変動解析を行った。 また、遅筋優位 Sol8筋細胞と速 筋優位 C2C12 筋細胞を用いて、 AXのミトコンドリアにおける作用機序を検討した。
【結果考察】 普通食群では、尾部懸垂により、 筋重量の減少が認められた。 これに対して、 AX食群では、 筋萎縮モデルを施しても遅筋線維が大部分を占めるヒラメ筋では筋重量減少が認められなかった。 特に、AX 食群は、 部懸垂による運筋線維タイプI、 中間筋線維タイプ Ila線維の萎縮に対して 抵抗性を示すことがわかった。 さらに、AX食群では尾部懸垂によって引き 起こされる筋特異的ユビキチンリガーゼ (Atrogin-1. MuRF1) の発現上昇が 抑制されていた。筋細胞を用いた解析において、 AX は、速筋優位 C2C12筋細胞ではなく、ミトコンドリア含量が高い運筋優位 So18 筋細胞において、ミトコンドリア複合体III 由来活性酸素の産生を抑制した。 以上の結果より、AXはミトコンドリア由来の酸化ストレスを消去することにより筋萎縮予防効果を有することが示唆された。
骨格筋内ミトコンドリア機能と筋萎縮に対するアスタキサンチンの作用
Effect of Astaxanthin on mitochondrial function and muscle atrophy
平坂勝也 川田2、 宮司進之 敏2 内田貴之*
*
(長崎大海岸未来イノベ、長崎大院・水曜・食品栄養 東洋酵素化学、 *徳島大 院 医歯薬 生体栄養)
【目的】 カロテノイド類アスタキサンチン (AX) は脂質二重膜に貫通する状態で存在し、そこで抗酸化力を発揮することが明らかにされている。 興味深いことに、 AXは膜構造を有しているミトコンドリアに比較的集積しやすいということが報告されそこで本研究では、 骨格筋内ミトコンドリアにおけるAX の作用とミトコンドリア障害によって引き起こされる筋萎縮に対するAX の効果について検討した。 【方法】 C57BL/6J マウスに普通食もしくは重量比 0.2% (AX量 0.02%) で配合したAX食を4週間与え、筋萎縮モデルとして尾部懸垂を2週間行った。 試験期間終了後、筋重量や筋線維横断面積測定、骨格筋内ミトコンドリア生合成関連遺伝子の発現変動 とミトコンドリア呼吸鎖複合体タンパク質量の変化、ミトコンドリア由来活性酸素種の測定を行った。 加えて、 ヒラメ筋由来 Sol8 筋細胞を用いて、 AXのミトコンドリアにおける作用機序を検討した。
【結果考察】 普通食群では、尾部懸垂により、 筋重量の減少が認められた。 これに 対して、 AX食群では、 筋萎縮モデルを施しても遅筋線維タイプI、 中間筋線タイプ線維が大部分を占めるヒラメ筋では筋重量減少及び筋線維横断面積の減少が認められなかった。 さらに、 AX 食群では尾部懸垂によって誘導されたミトコンドリア由 来活性酸素種ROSの産生やミトコンドリア呼吸鎖複合体タンパク質量の減少を有意に阻害することがわかった。 加えて、 筋萎縮によって障害されたミトコンドリア生合 成遺伝子の発現レベルはAX摂取により改善された。 Sol8 筋管細胞を用いた解析に おいて、 AXは、 ミトコンドリア複合体III 由来活性酸素の産生を抑制し、ミトコンドリア呼吸鎖複合体障害によっておこる膜電位の減少を改善することがわかった。 以上 の結果より、AXはミトコンドリア由来の酸化ストレスを軽減することにより、 ミトコンドリア機能を保持することで筋萎縮予防に効果的である示唆された。
細胞内ミトコンドリアエネルギー代謝に対するアスタキサンチンの作用
Astaxanthin Exerts Immunomodulatory Effect by Regulating SDH-HIF-1a Axis and Reprogramming Mitochondrial Metabolism in LPS-Stimulated RAW264.7 Cells.
Sun Luchanyang' Kim Sangeum2 森亮-2、宮司進之、二川健、〇平坂勝也 1-3 (長崎大院・水産・食品栄養、 長崎大医 病理、 東洋酵素化学、 徳島大院・医 歯薬 生体栄養 長崎大海洋未来ノベ)
【目的】 海洋性カロテノイド類アスタキサンチン (AX) は様々な細胞で抗炎症効果を有することが報告されているが、そのメカニズムは多岐にわたっている。 我々は AX を細胞に処理するとミトコンドリア画分にも検出でき、 ミトコンドリア内で機能していることを報告している。本研究では、これまでに報告されていないマクロファ ジミトコンドリア代謝に対する AX の効果にについて検討した。
【方法】 細胞はマウスマクロファージ様細胞株 RAW264.7 細胞を用いた。 RAW264.7 細胞にAXを処理後、リポ多糖 (LPS) にて刺激し、炎症性サイトカイン、ミトコンドリア由来活性酸素種、呼吸鎖複合体タンパク質量の変化を解析した。 加えて、細胞のエネルギー代謝は細胞外フラックスアナライザーを用いて測定した。
【結果考察】 LPS 刺激により炎症性サイトカイン IL-1βの発現と分泌およびミトコ ンドリア由来O2 生が有意に上昇した。 これに対して、 AX を処理した細胞では LPS刺激によって増加した IL-18およびミトコンドリア由来 O2 帝生が有意に抑制された。さらに、AX は、 LPS刺激によって引き起こされるミトコンドリア呼吸鎖複合体I、II、およびタンパク質量の減少を抑制した。 特に、AXはLPS 刺激によるミトコンド リアのコハク酸ヒドロゲナーゼ (SDHミトコンドリア呼吸鎖複合体II) 活性低下 や SDH複合体サブユニットBの発現量減少を有意に抑制した。 SDHの阻害剤である Atpenin A5を用いた解析により、 AXは SDH-HIF-1 シグナル伝達経路の上にあるミトコンドリアに直接作用し、 IL-1β発現を阻害することがわかった。 次に、 AX がミトコンドリア機能に関与することから細胞内エネルギー代謝を測定した。 LPS 刺激により細胞は解糖系に依存したエネルギー代謝を示すが、 AX を処理した細胞は、酸化的リン酸化に依存したエネルギー代謝を示すことがわかった。 これらの結果は、 AX が免疫細胞のミトコンドリアのエネルギー代謝に作用し、免疫応答を調節することが 示唆された。
2023 年 6 月 22 日公開
スピルリナの機能の原点を解く
東洋酵素化学 株式会社
学術調査 室
女子栄養大学名誉教授
薬学博士 医学博 士
林 修
スピルリナは、こんにちまで実に多くの研究論文が発表されてきた。すなわち、多くの研究者たちがスピルリナに関わってきたのである。
研究者たちは自然界の特異な生物におのずと興味を抱いたからにほかならない。
スピルリナは、およそ 35 億年前に地球上に最初に発生した生命細胞・藍藻類の仲間である。分類学上、シアノバクテリア藍色細菌とされている。
生物形態は個々の単細胞が規則性をもってラセン状に整列した群生体を造って生命を営んでいる。
ラセンは、DNA や宇宙の銀河系もそうであるように自然界に広く見受けられる。スピルリナも生誕時に宇宙の摂理に従って生命の営みを始めたのであろう。
細胞集合体は
①完全食とも言えるブロードな栄養スペクトラムを持つこと(残念ながらビタミン C を自己合成しない。生命初期にはビタミン C は生活細胞に必須でなかったのであろう)
②フィコシアニンと呼ばれる独特の機能性青色成分(光合成青色色素)を含むこと
③デトックス効果が多編報告されていること
(有用成分の取り込みと有害成分の排出が同時に進行するわけである)
など、唯一無二の天然食材は、メジャーな一般紙(朝日新聞 2015.11.7、毎日新聞 2015.12.13)でも“スーパーフードの代表格”と紹介されている。その所以はこの特異性にある。
スピルリナの健康に関与する機能研究は多岐にわたり発表されているが、スピルリナを理解するとき、確認された多くの報告の中から特定の機能を取り上げるべきでなく、見方を変えた方がスピルリナの本質が浮き出てくる。
生体は本来、恒常性(今日も明日も健康な範囲で同じ状態を保とうとするはたらき)を維持する仕組みをそなえている。しかし、時として外敵(病原性細菌、ウィルス、化学物質など)にさらされる場合があり、また、体内では何かの原因で炎症が発生する。しかし、生体はまた自ら元に戻ろうとする修復機能も備えている。それにより、健康が継続する。論文発表されたスピルリナの身体に与える多岐の生理機能、それに加えブロードな栄養スペクトラムは、真に“本来の恒常性”の増進によい影響を与え、「全体の組織バランスが保たれた身体(からだ)の基礎作り」に優位に働くであろう。スピルリナの健康機能はその一点を捉えるべきである。
言い換えれば、スピルリナは健康を維持改善する恒常性又は修復作用のサポート、さらには、作用発現のプロモーターとなり、本来の健康力の底上げに働くであろう。
多岐にわたる研究報告はその裏付けとなる資料と解くことができる。
2022 年 7 月 10 日公開
オートファジー機構に関与するアスタキサンチンとフィコシアニン
オートファジー機構に関与するアスタキサンチンとフィコシアニン
近年、アンチエイジングに深く関与する体内の機構に、オートファジーの仕組みが注目されている。
アンチエイジングに貢献する健康機能素材として広くしられているアスタキサンチンはアンチエイジングに深くかかわるオートファジー(細胞の自食)機構に好影響を与える可能性が指摘されており、注目度が高まっている。
アスタキサンチンについては、ミトコンドリアの呼吸(エネルギー産生)を向上させる働きが確認されており、この働きが、オートファジー機構への効果につながっている可能性もある。
体内で起こるオートファジーの仕組みが注目
オートファジーは、細胞内にたまった不要なタンパク質などを、リサイクルし、体内で再活用するための仕組み。こうした働きがあるため、細胞は恒常性を保つことができ、老化抑制につながるという。この仕組みを発見した大隈良典氏はノーベル賞を受賞したことで脚光を浴びることとなった。
オートファジーが何らかの理由で機能不全になると、疾病や体調不良、肌の老化などにつながる可能性があると言われている。
オートファジーを活性化する食材は
アスタキサンチンは、このオートファジーを活性化する働きを持つことが示唆されており、注目が高まっている。’22年7月8日に放映されたテレビの情報番組に、大阪大学大学院教授で、大隈氏と共にオートファジーの研究で著名な吉森保氏は番組中のトークに、オートファジーを活性化する成分の一つとしてアスタキサンチンが(その他ケルセチン、レスベラトロール等と共に)紹介され話題となった。
また、番組とは別に、フィコシアニン(スピルリナに特異的に含まれるブルー色素成分)のオートファジー活性についても Liao G et al.:Sci Rep 6,34564(2016)に報告されている。
ミトコンドリアの酸化ストレス抑制を確認
弊社は、長崎大学との共同研究で、ミトコンドリア由来酸化ストレスに誘因される筋繊維細胞死が、アスタキサンチンを摂取することにより防止できることが確認された。
アスタキサンチンはミトコンドリア内膜に入りやすく、同研究によってアスタキサンチンの摂取が呼吸鎖タンパク質から生産される活性酸素種を消去し、ミトコンドリア障害によって引き起こされるアポトーシスの誘導を抑制することが明らかにされている。
細胞膜機能を保全
さらに弊社は山口大学においても筋線維細胞萎縮モデルマウスによる研究を行なっている。
この研究では、細胞膜構造における脂質成分の過酸化変性が膜機能に異常な影響を与え、細胞のアポトーシスを引き起こすことが着目された。
これらの結果から、アスタキサンチンの、ミトコンドリアや細胞膜に与える影響がオートファジー機構への効果にもつながっているのではないかと推測される。
アスタキサンチンとフィコシアニンがオートファジーの活性に与える影響についての研究は、海外の研究機関において実施されているので以下に紹介する。
<用語の説明>
AX :Astaxanthin
Phyc :Phycocyanin
AMP-activated protein kinase (AMPK)
細胞内のエネルギー状態を監視し、糖・脂質代謝などを調節する酵素。
老化の重要な調節因子として機能することが示唆されている。
Phosphoinositide 3-kinase(PI3K)-Akt 経路
細胞の生存及び死の周期を制御するシグナル伝達経路。
mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)
栄養素・エネルギー状態のセンサーとして機能し、細胞内の物質代謝やエネルギー産生を調
節するタンパク質複合体。mTORC1 の活性阻害は、癌細胞の増殖や血管新生を抑制する。